「AIが賢くなると、人は暇になる」
一般的にはそう言われています。AIが仕事を肩代わりしてくれるから、人間は楽ができるはずだと。
けれど、少なくともトップレベルの経営者や専門職にとっては、事態は逆のようです。
先日公開されたNVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏のインタビュー動画を見て、確信を深めました。
「答えが秒速で返るほど、次の問いを立てるのも、意思決定を下すのも人間になり、ボトルネックは計算から人へと戻る。結果、私たちはより忙しくなる」
まさに、加速の時代に問われているのは処理能力ではなく、判断の速度と質なのです。
まずは、こちらの動画をご覧ください。
ジェンスン・フアンの思考実験:「答えが1秒で返ってきたら?」
動画の中でフアン氏は、自身の働き方について興味深い話をしています。彼は現在、各分野において自分より優れた60人もの部下に囲まれて仕事をしているといいます。彼らにとって、AI(OpenAIやGeminiなど)もまた、特定の分野ですでに自分より賢い「同僚」のような存在です。
彼はこう語ります。
「私がチームに取り組んでもらう問題を定式化するとき、彼らが答えを見つけてまとめて返すまで、たいてい数日待てます。その待ち時間があるからこそ、私は次のステップを考えられるのです。
では、その答えが基本的に1秒で返ってきたらどうなるでしょうか? これが思考実験です。そうなると、私の一日はとてつもなく忙しくなります。なぜなら、私自身があらゆることのクリティカルパス(重大なボトルネック)になってしまうからです」[58:17]
答えが出た瞬間に「よし、次はこれを考えなければ」と進めていくことになる。情報技術が速くなればなるほど、私たち自身が意思決定の要となり、これまで以上に忙しくなるというのです。
弁護士業務におけるAI活用:究極の「イソ弁」として
この話は、私たち弁護士の業務にもそのまま当てはまります。
私も現在、様々なAIを導入しています。特定のタスクにおいては、雇用される弁護士よりも優秀な能力(24時間いつでも同じパフォーマンスを発揮し、疲れない)を持った部下として用いています。
いわば、AIは究極の「イソ弁(居候弁護士)」です。しかも、人間のイソ弁より高速で、抜け漏れのない回答を出してくる。
これを事務所の「ボス」としての視点で見るとどうなるか。
それは、仮説的思考を何度も、高速で繰り返せる ということを意味します。
私が新人の頃、こう思ったことがあります。
「持っている案件数が少ないからこそ、1つの案件に時間だけは倍以上かけられる。だからこそ(ベテランにも)勝てるんだ」と。
当時、売れっ子の相手方弁護士は何件も案件を抱えて忙しく、目の前の案件に対する事実関係の把握力が明らかに落ちていると感じることがありました。
昔は、1案件ごとにかけられる「時間の長さ」が重要でした。時間が長いということは、すなわち多角的な検討ができていることを意味していたからです。
単位時間当たりの「思考密度」が勝負を決める
しかし今、AIによって革命が起きました。
AIを用いれば、単位時間当たりの仮説的思考の密度を究極に濃くすることができます。
これまでは数日かかっていたリサーチや論点整理が数秒で終わる。その分、浮いた時間で「暇」になるのではありません。フアン氏が言うように、次々と新しい仮説を立て、検証し、戦略を練り直すプロセスを何周も回すのです。
AIを用いていない案件処理と、用いている案件処理では、同じ時間をかけてもその「密度」が決定的に違ってきます。
かつての新人が武器にした「時間」の価値が、AIによって「速度と質」に置き換わったのです。
クライアントにとっての「コスパ・タイパ」とは
弁護士に依頼する際、その弁護士が経営レベルでAIの特性を理解し、業務に積極的に取り入れているかを確認することは非常に重要です。
なぜなら、それは単に弁護士が楽をしているかどうかではありません。
あなたの案件に対して、どれだけ多角的な検討がなされ、どれだけ高密度な思考が費やされたか に直結するからです。
結果として、それが弁護士費用におけるコストパフォーマンス(費用対効果)とタイムパフォーマンス(時間対効果)を最大化し、クライアントの満足度を高めることになります。
AIで人は暇にはなりません。
むしろ、より本質的な「思考」と「決断」のために、かつてないほど忙しく、そしてクリエイティブに働けるようになるのです。

-640x348.jpeg)

-200x200.png)
この記事へのコメントはありません。